第三章

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   最初に話しかけたのは僕だったね。  人に追いかけられることに疲れた君は、たまたま開いていた生徒会室に飛び込んできた。入ってきて僕がいることに気づいて慌てて出て行こうとする君を、僕が引きとめた。  橘左京。  君が名乗る前から、僕は君を知っていた。話題になっていたからね。美形の双子が一年生にいると。特に弟の方は性格も良くて、ファンも付いているとか。  あんなにいつも視線を投げかけられて、疲れないのかと不思議だった。いつもにこにこしていたから。  少し話して、やっぱり君でも疲れているんだとわかって、僕は学校で少し休憩出来る場所があってもいいと思った。だから、他に生徒会役員がいない日に、君に空いていることをメールするようになった。  二回目に生徒会室に君が来た時、気を使って出て行こうとする僕を、今度は君が引き留めた。  他愛のないことを話した。君が出す話題は、ほとんどがお兄さんのことだったけど。  楽しかった。  それが、触れたくて、それを我慢するのが辛くて、苦しくなってきたのはいつからだっただろう。  そんな僕の変化に、君が気付いたのはいつだった? 君の話す話題に、お兄さん以外の、一人の女の子が多く出てくるようになったのはいつだった?  告白した時、どうして可能性はゼロじゃないと言ったんだ?  君に触れた僕の手を、どうして拒まなかったんだ?  君が、あの子と付き合い始めたと知った時、僕はよかったと思った。どうして、と言う思いはあったけど、君が笑っていたから。  ──でも。  僕はここからいなくなるんだ。  それが決まった時、何かが崩れてしまった。  今までの僕。  信頼されていた? だから何? 結局何も残っていない。何も持たずに行くんじゃないか。  そう思った時、君を思い出した。  ねぇ、あの時のどうしてに答えてくれる?  そうしたら本当に、僕には何も残っていなかったとわかって、すべてを捨てていけると思ったんだ。
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