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『風の噂』 「彼は元気だよ」 女友達が遠慮がちに言う 女友達とも久しぶりだった 彼女の言う【彼】とは 私の片想いしていた相手で 一緒にはなれない存在で 言われるまで忘れていた その一言で私の記憶が巡り巡って 走馬灯の如く 過去に戻る感覚がする 今は私はそこにいない 今まで私が一番近くにいたのに いつの間にか一番遠くにいる 彼が落ち込んだ日 私はずっと励まし 彼が喜んだ日 私は一緒に笑った 初めて会った日の事を 私は今でも鮮明に思い出す 触れられる距離にいた私と彼は 知らぬ間に引かれた境界線で 見知らぬ壁により阻まれる 忘れていたなんて嘘だった 忘れてしまえば楽だと 思い込んでいただけだった 今でも名前を聞くと涙が流れる それほどにも好きな人 誰よりも幸せになって欲しい人 そう考えて前に進んだ それが正解だったのかは 今でも分からない 「彼の願いが叶いますように」 そう呟いた私を 女友達は泣きながら抱き締めた
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