散田

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冷たい雨の火曜、午後、公園入り口。 冷え込んではいるが雪には変わりそうにない雨が朝から降り続いている。 パチンコ店は休みだし、今日はこの近辺に用はなかったのだが……ついタケヒロが気になってここへ来てしまった。 雨が傘を叩いて、パリパリと音を立てる。 っち。 舌打ちをして公園に足を踏み入れた。 冷たい雨の降る公園に、人の気配はない。 いつも腰かけるベンチ。 そばの植え込み。 真反対にある東屋。 くるりと公園を一周し、タケヒロの姿がないことに安堵した。 今日は落ち着いているのだろう。 お袋もそうだった。 冷たく当たる、食事を抜く、金切り声を出す……。 子供からすれば、なんでそんな仕打ちを受けるのか全く解らなかった。 要するに、お袋は駄々を捏ねていたに過ぎない。大人になりきれていなかったのだ。 子育てが自分の時間を拘束されるものだと言うことも、一筋縄ではいかないことも自覚していない、大人の外見を持つ子供だったのだ。 けれどもそんな親でも、一応は人の子だ。 俺に辛く当たった後、激しく後悔し、泣いて謝り、抱き締めてくれた。 ……だから嫌いになれないのだ。 圧倒的な数の鞭と、数えるほどの飴。 それでも子供は僅かな飴の味を忘れられない。 愛された記憶を拭えない。 結果、虐待が露呈しそうになると子供は親を庇い、そのまま闇に隠されることになる。 ひどいときには取り返しのつかないことになったりもする。 大人と言われる年齢になった今、冷静に考えれば、自分から助けを求めればよかったと思う。 けれども、そうできない事情も子供なりにあるのだ。 恐らく、タケヒロは虐待を受けている。 暴力ではなく、育児放棄と言う形で。 まだ俺の問いかけに答え、警戒しつつも人との関わりを拒否しない分、希望が持てる。 そぼ降る雨の中、昨日の寒さでタケヒロが風邪を引いていなければいいが、と思いながら公園を後にした。
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