散田

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灰色の雲が立ち込める水曜、昼前、パチンコ店。 今日はほぼイーブンで玉を打つのを終えた。 店内に目を走らせる。 この昼日中からパチンコに興じる人間の多さに溜め息が出る。 僅かな手玉を換金して外でタバコをくわえたら、いつの間にか隣にいた男からスッと火が出てきた。 「……なんだよ、お前も暇なやつだな」 「暇じゃないさ、勤務中だ」 「よく言うよ、税金返せコノヤロー」 ややダークなスーツ、トレンチコート。 顔は悪くないが、性格が悪い。 俺は煙を吐きつつ、奴を横目で見た。 針尾聖司、悪友だ。 サンタと聖司、クリスマスみたいなコンビだとよく言われた。 けれど俺たちはもちろんサンタでも聖人でもない、品行方正とは程遠い中学生だった。 悪さをしては、担任に捕まるのは俺。 要領のいい聖司はしれっと逃げて難を逃れる。 成人した今も、彼は遺憾なくその要領の良さを発揮して、どんどん役職を上げている。 わざわざ視線を合わすこともなく、聖司はぼそりと言った。 「首尾は?」 「ぼちぼちかな」 「珍しいな、お前が手をこまねいてるのは」 煙を深く吸い込んだ。 「別件抱えてんだよ、俺も」 「ほぉ」 ニヤニヤ笑いながら聖司は言う。 「また面倒くさいものを背負い込んだんだろう。 バカだな、つくづく」 うるせぇよ。 思いながらも二つの視線は四方をくまなく見渡す。 聖司と二人、体の向きはやや向い合わせだが、視線はあっていない。 実は俺は彼の向こう側を、彼は俺より先の風景を見ている。 「ま、せいぜい頑張れ。こっちの方、手を抜くなよ」 「言われなくてもやるさ」 タバコを吸わない聖司は、ダミーで火を点けただけの長いままのそれを、灰皿に押し付けた。 一瞬だけ俺に視線を寄越し、口の端を上げて離れていく聖司。 待ち人を見つけたのだろう。 俺は一つだけ大きな息を吐いて、公園へと足を向けた。 今日も寒い格好で植え込みに踞ってなきゃ良いが……そんなことを思いながら。
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