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公園までの短い道のり、いつものコンビニの看板が見えている。
飾り付けられたクリスマスツリーが歩道にせり出していて、色とりどりの電飾を光らせている。
ふと見れば、ウィンドウに「ケーキ販売員急募」の文字。
24日のクリスマスイブに店頭販売と予約分お渡しをするものらしい。
24日じゃなかなか捕まるまい。
時間も夜9時までだ、デートに勤しむ者もいれば、クリスマスなんざ関係もなく仕事に勤しむ者も多いだろう。
……或いはここなら。
俺はちらりと時計を見やってから、そのケーキ屋の自動ドアの前に立った。
……24日、俺はどうやらコスプレをさせられるらしい。
臨時バイトの契約をして店を出た俺に、寒風が体当たりしていく。
おでんだな、こりゃ。
そんなことを思いながら、コンビニ前まで来たときだ。
真向かいの公園で遊んでいるタケヒロが目に入った。
何かの都合で午前中授業だったのか、ランドセルを投げ出して、制服姿のまま数人の男児と戯れている。
なんだ、良い顔出来るじゃねーか。
楽しそうに笑うタケヒロを見て、寒さで強張っていた表情が緩んだ。
少しでも楽しい時間があれば乗り越えていける。
かつて俺がそうだったように。
あの悪友がいたから、俺は俺と言うアイデンティティーを失わずに済んだのだと思う。
奴の余裕の表情を思い出すと非常に不愉快だが、同時に笑みも溢れる。
制服の上には量販店の物だろうか、ありきたりな中綿ジャンパー。
手には……あの日買った手袋だろうか。
元気なタケヒロの姿を目に映し、俺は公園の前を離れた。
平穏な時間を思う存分味わってほしかった。
平日に俺と会ったことなど思い出さなければ、それに越したことはないのだ。
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