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深々と冷え始めた水曜、夕方、公園のベンチ。
缶コーヒーのプルタブを開け、一口啜った。
昼下がりからじっとしていると寒さが堪える。
文庫本を読む振りをしていたが、陽の射す日中ならまだしも、この時間帯はもう無理がある。
今日も空振りだった。
コーヒーを飲んだら帰る。
家についたら、温度高めの風呂に入ってとにかく暖まろう。
あれ以来、タケヒロが植え込みに踞る姿を見たことはない。
過去の自分に照らし合わせて、どうやらオーバーに考えすぎたようだ。
子供の嘘は簡単に見抜けるが、デリケートな問題を抱えている場合、嘘と断定する瞬間を見誤ってはならない。
だから慎重にはなっていたし、色々配慮もしてはみたが、取り越し苦労に終わった。
でも、それで良いと思う。
あの日タケヒロは、制服に牛乳をこぼし、叱られ、不貞腐れて飛び出したのだろう。
学校をサボっているのを咎められたくなくて、大人の目と警察に怯えた。
バカなおっさんから肉まんをせしめ、満足して帰ったと思えば良い。
主たる目的の収穫はなかったが、タケヒロが落ち着いて生活している確認が出来たことで、やっと集中できると言うものだ。
厄介事にも首を突っ込まずに済む。
収穫なしの現状に聖司にはまた嫌みの一つも言われそうだが、俺は気分よくベンチを立ち上がる。
今時珍しい、金網で出来たでかいゴミ箱に向かって、缶を放り投げる。
黒い缶は放物線を描いて、ゴミ箱に吸い込まれた。
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