散田

5/5
95人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
深々と冷え始めた水曜、夕方、公園のベンチ。 缶コーヒーのプルタブを開け、一口啜った。 昼下がりからじっとしていると寒さが堪える。 文庫本を読む振りをしていたが、陽の射す日中ならまだしも、この時間帯はもう無理がある。 今日も空振りだった。 コーヒーを飲んだら帰る。 家についたら、温度高めの風呂に入ってとにかく暖まろう。 あれ以来、タケヒロが植え込みに踞る姿を見たことはない。 過去の自分に照らし合わせて、どうやらオーバーに考えすぎたようだ。 子供の嘘は簡単に見抜けるが、デリケートな問題を抱えている場合、嘘と断定する瞬間を見誤ってはならない。 だから慎重にはなっていたし、色々配慮もしてはみたが、取り越し苦労に終わった。 でも、それで良いと思う。 あの日タケヒロは、制服に牛乳をこぼし、叱られ、不貞腐れて飛び出したのだろう。 学校をサボっているのを咎められたくなくて、大人の目と警察に怯えた。 バカなおっさんから肉まんをせしめ、満足して帰ったと思えば良い。 主たる目的の収穫はなかったが、タケヒロが落ち着いて生活している確認が出来たことで、やっと集中できると言うものだ。 厄介事にも首を突っ込まずに済む。 収穫なしの現状に聖司にはまた嫌みの一つも言われそうだが、俺は気分よくベンチを立ち上がる。 今時珍しい、金網で出来たでかいゴミ箱に向かって、缶を放り投げる。 黒い缶は放物線を描いて、ゴミ箱に吸い込まれた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!