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嫌な予感がする。
ぞわぞわと這い上がる不安が焦りを生む。
「今日はご苦労様」
人の良さそうな店主が表へ出てきた。
俺は店主に一言断って、脱兎のごとく駆け出した。
取り越し苦労であってくれればいい。
暖かい部屋で、サンタが来るのを待っていてくれれば。
あまり距離の離れていない公園に駆け込んだ。
噴水の周りにイルミネーションが施され、そこそこ人がいる。
まさかこんなに人がいるところで、踞ってる筈はない。
そう思いながらも、不安は続々と募ってくる。
小さな東屋にはいちゃつくカッブル、いつものベンチにも人がいる。
噴水の周りには数名が幻想的な光景に見入り、遊具には人影はない。
プレゼントの袋を紛失したかのように、サンタは公園内をくまなく探す。
……そして公園の奥、灯りもなく人気もない、澱んだ池の端の植え込みの中に、摺りきれたスニーカーが見えた。
どくり
胸の中心が嫌に跳ねた。
植え込みに飛び込む。
「タケヒロ!!!」
量販店のジャンパー、コンビニで売られていた手袋。
冷たい地面に横たわるそれは、看板を持っていた手と同じくらい冷えていて。
「タケヒロ!!!」
抱き起こすと、僅かに目を開いたタケヒロは、薄く笑う。
「……サンタ、さんだぁ……」
囁くように呟いて、そのまま腕の中でくたりと力を失った。
手袋に包まれた小さな左手から、
コロリ
冷たい光を放つパチンコ玉が転がった。
冷えきった空気の中で、怒りに血が煮える。
タケヒロをこんな状況に追い込んだ親に。
そして、安易にもう大丈夫だろうと高を括った自分に。
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