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サンタ服を脱ぎタケヒロを包み込むと、抱き抱えて俺は公園を駆け抜けた。
タケヒロの体の冷たさは服越しにも解るほどで、焦りが足を無意識のうちに動かした。
ケーキ屋に飛び込んで、救急車を呼んでくれと叫んだ。
飛び出したかと思えば、ぐったりした子供を抱き抱えて戻ってきた俺を見て、店主は仰天しながら慌てて受話器を取り上げた。
店主は二階の自宅から毛布を持って駆け降りてきて、一緒に働いたアルバイトの学生は自分が使っていた携帯カイロをタケヒロの脇の下に挟み込む。
だぼついたサンタの衣装を脱ぎ捨て、タケヒロを包んだ赤い上着のポケットからさっき捩じ込んだ写真を抜き取った。
聖司への連絡は後回しで構うまい。
そもそも期限など切られてはいない。
それよりもするべきは……。
蒼白のタケヒロに声を掛けるが反応がない。
ギリギリと歯を噛み締める。
間に合え
間に合ってくれ
小さくなった灯火を燃やそうと、大人たちは懸命に暖める策を練るが、下手に暖めると命の危険もある為、素人には手の打ちようがない。
しばらくしてやって来た救急車にタケヒロは吸い込まれた。
付き添いで俺も乗り込むと、店主がバイト代の入った封筒を俺に押し付けながら、何時になってもいいから連絡をくれと叫んだ。
頷いたのが店主には見えただろうか。
救急車のドアが外の空気を遮断して、タケヒロのバイタルチェックが始まった。
病院の集中治療室の前で、医師の報告を待つ間、俺は沸々と煮える血を持て余す。
沸騰した頭で、冷静に策を練る。
やがて部屋から出てきた医師が、命に別状はないこと、ある程度回復したら一般病室に移すことを告げた。
深く頭を下げ、タケヒロのことをよろしくと念押しし、保険証を取ってきてまた戻ると医師に言い残して俺は病院を出た。
携帯電話でケーキ屋に無事の連絡を入れた後、俺は長く一つ息を吐き出して、ある番号を表示した。
またこいつに借りを作ることになるな。
ま、世の中ギブアンドテイクだ、お前が欲しがってるものを入手したんだ、文句はあるまい。
何回目かのコール音で、ぷつりと音が切り替わる。
聖司が「おう」と答えた。
「……頼みがある」
俺の低い声に何かを悟ったのか、聖司は「派手に暴れるなよ」とだけ言った。
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