サンタクロース

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……タケヒロ。 俺はサンタなんかじゃない。 お前から僅かな飴さえも奪う、夜叉だ。 許してくれとは言わない。 ただ、約束する。 お前が、お前らしく生きていくための場所を、俺が整えておくと。 女の髪を掴んだまま、俺は呟いた。 「タケヒロのことをなんだと思ってる? 子供は、あんたのことを頼ってるのに。 親のあんたは何をしている?」 男は信じられないと言う声を出す。 「お前、子供いたのかよ!!」 女は無言で男を見つめた。 舌打ちと共に男はコートとバッグを掴み、部屋を出ようとした。 ダンッ 柱に足を伸ばし、男の行く手を阻む。 「何だよ、俺には関係ないだろうっ」 男が俺を睨んだ。 「タケヒロのことは確かに関係ないが、あんたもただで済むと思うなよ。 同罪だよ。 それに、子持ちを黙っていたこの女も女だが、家庭を持ってることを黙ってたあんたもあんただろ」 ひゅっと息を吸い込む音がした。 今度は女が喚く。 「なんでっ?結婚しようって言ってたの、嘘?」 下らない。 男と女の色事。 こんなことに振り回されたタケヒロが痛々しくてならない。 「そんなのは後から二人でやってくれ」 冷たく言い放つと、男を遮った足を男の腹めがけて繰り出した。 突然の攻撃に男は膝を折る。 ポケットから結束バンドを取り出し、女の腕を捕まえて、後ろ手にして親指同士を括る。 同じように崩れ落ちた男も縛ると、背中合わせに座らせて、親指に絡むそれぞれのバンドをさらに括りつけた。 「誰かっ!!」 女が叫ぶ。 「心配しなくてもそのうち警察が来るさ。俺が呼ぶから」 カーテンを開けた。 公園の噴水に施されたイルミネーションが、遠くに光っているのが見えた。 「タケヒロは公園の植え込みでずっと膝抱えていたんだよ。 低体温症で病院にかつぎ込まれて、今治療中だ。 ……なあ、あんたらが乳繰り合っている間、タケヒロがどんな思いでいたか解るか? あの公園からどんな思いでこの部屋を見つめていたか解るか?」 サッシを開けた。 寒風が吹き込んでくる。 二人は黙ったままだ。
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