サンタクロース

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ゆっくりとエアコンのスイッチを切った。 ホットカーペットのスイッチもオフにする。 「タケヒロがどんなに寒かったか、どんなに寂しかったか、あんたらに解るか?」 部屋に充満していた暖かい空気は、全開にされた窓から入ってくる寒風にあっという間に霧散する。 身を震わせる男に向かって言った。 「あんたにも子供がいるんだろ? こんなとこで遊んでる場合じゃないんじゃねーの?」 男は黙っている。 女が懇願し始めた。 「ねえ、タケヒロ大丈夫なの? これ解いてよ、アタシ病院に」 戯れ言は要らない。 「笑わせんなよ」 にべもなく女の言葉を絶った。 「今の今までタケヒロのことなんざ考えもしなかったくせに、今更母親面すんなよ。反吐が出る。 どうせあんたら逃げ出すだろう? 要らねーよ、そんな猿芝居。 ……保険証は?」 女は口を閉ざした。 「保険証は?」 語気を強めた。 女は渋々、カラーボックスのどこかにあると吐き出した。 物色の趣味はないが、結束バンドで拘束したものは仕方がない。 タケヒロのカードを見つけると、俺は携帯電話を耳に当てた。 「……後は頼んだ」 ここで体を拘束することは出来ても、俺には身柄を拘束する権限はない。 「警察が来るまで、タケヒロが味わった寒さを味わうと良い。 背中が暖かいだけでも感謝するんだな」 パチリ。 部屋の電気を消す。 「あんた誰よ、なんの権利があってこんなことすんのよ。 あんたこそただじゃ済まさないから!!」 寒さに声を震わせ、歯を鳴らしながらも女が噛みついてくる。 最後まで自分の態度を悔い改めない女だ。 おもしれぇ、それなら俺も最後まで侮蔑するまでだ。 俺は笑ってそれに答えた。 「誰って、決まってるだろ。 今日が何の日か解ってるくせに」 玄関に向けて歩き出す。 ……タケヒロ、ひどいクリスマスプレゼントになってごめんな。 胸を過るタケヒロの眉を寄せた顔。 それを打ち消して、俺はニヤリと顔を歪めた。 暗闇で顔が見えるはずもない。 だが、恐らくそれは夜叉の笑み。 「サンタクロースだよ、良い子の味方だ」 玄関のドアを開けると、皮膚を切るような風が一直線に部屋に流れ込んだ。 夜叉には夜叉の美学がある。 真っ暗な部屋を一瞥した。 「メリークリスマス、お二人さん」
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