パチンコ玉

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あれからサンタが四度通りすぎた二月、午後、事務所。 抱える案件は浮気調査が二つと、身元調査が一つ。 これに加えて聖司がちょいちょいと調査を振ってくる。 国家機関なんだから権力駆使してテメエらでやれよとも言いたくなるが、飯のためだ、仕方ない。 浮気調査は型がつきそうだ。 一件は白、一件は黒。 正直どうでもいい。 人間は理性を持った動物なはずなのに、無駄な知恵も持ってるもんだから、浮気は後を絶たない。 こんな相談が日常茶飯事な環境にいると、愛というやつがいかに脆いものかを突きつけられる。 落胆を通り越してアホ臭いとさえ思う。 愛も金も、俺にとっては人を狂わせるものでしかないし、一番信用ならないものだ。 そんな煩わしいものに縛られるくらいなら、ビジネスライクを貫いた方が楽だ。 金も女も、なんなら自分の命も、その場がなんとかなればそれでいい。 何かに執着すればするほど、それを失うのが怖くなる。 執着のない俺には、もしかしたら明日消されるかもしれない危険性を孕んだこの稼業がお似合いなのかもしれない。 調査報告をまとめ、依頼人にカラオケボックスで落ち合うアポイントを取ると、俺はソファに身を沈めてタバコに火を点けた。 ガチャリ 遠慮なしにドアが開いて、聖司が入ってきた。 「よう、暇か?」 「暇じゃねーよ、今一服し始めたのに」 答えながらチラリと見ると、背後にもう一人、男が立っていた。 「…………」 言葉が出ない。 あの体躯には大きすぎたはずのダウンコートは、背の延びた彼にピッタリになっている。 大人びたデザインにも追い付いたのだろう、違和感はなかった。 さすがに手にはあの手袋はないが、やや大きめの旅行鞄。 あどけなさが抜けて、男っぽくなったタケヒロがまっすぐに俺を見ていた。 長くなった灰がほろりと落ちた。 どう表現したら良いのか解らない沸き上がる感情を落ち着けようと、俺は煙を深く吸い込んで、それを灰皿に押し付けた。 ……どうやら時が来たようだ。
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