エピローグ

3/4

95人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
四年前、針尾聖司、自宅。 初めて会ったとき、奴は目に何も映していなかった。 中途半端な時期に転校してきた奴が、クラスに馴染もうともせず、無関心なのが気になった。 何かが欠落している、そう思った。 学級委員なんてのをやらされていた俺が、厄介なものを押し付けられるように、奴の世話係になった。 あいつは何事にも執着がなくて、無関心で無感情。 かと思えば、転校生をなめてかかり理不尽なことを要求してきたクラスメイトや、お山の大将だった上級生をフルボッコにするくらいの激情を持っていた。 殴り続ける様は、鬼か悪魔かと思うほどで。 血に濡れた腕をだらりと下げ、感情の籠らない瞳で地面に伏す輩を見下ろす顔を見たとき、世話係である以上こいつをコントロールしないとヤバイ、と子供心に思った。 たいして忙しくもない部活に誘い、 ちょっとした校則違反を隠れてしてみたり、 内申書に響かない程度の悪さをしたり。 付き合ううちに、あいつが誰かに必要とされたいという感情を心に宿していることに気づいた。 あいつは、孤独だったのだ。 鬼、いや、人の姿をしてるから夜叉というべきか。 そんな雰囲気のあいつから、どうにか信用らしきものを得るまで、相当時間がかかった。 今でもちょいちょい面倒事を振るのは(警察組織に居るゆえに大っぴらには出来ないが)、あいつを一人にしないため。 何分、あらゆることに執着がないから、下手したら明日にでも野垂れ死にそうな危うさがあいつにはあった。 ところがどうだ! 『水やれよ、枯れるぞ』だ? ビックリするわ、一瞬返事に困ったくらいだ。 どうやら奴が抱え込んだのは、厄介事ではなく、奴を人に戻すためのお宝だったらしい。 あの栄養失調気味のちんまりしたガキは、そのまま昔のあいつだったのだろう。 まあ何にせよ、あいつの顔に今まで見当たらなかった生気が宿ったのは喜ばしいことだ。 テメエで執着を作ったんだ、今までみたいに無謀なことはしないだろう。 何せ、うかうか死ねなくなったんだからな。 しかし……。 十年以上気にかけてやったのに、あのガキ、美味しいとこだけ持っていきやがったな。 癪だから、こき使ってやろう。 ま、その方がお前も気が紛れるだろ。 なあ、悪友よ。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

95人が本棚に入れています
本棚に追加