タケヒロ

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「じゃあ、俺はそろそろ行くわ」 ビニール袋に手を突っ込んで、子供用の手袋と、貼るタイプのカイロを一束、ガキの太ももに向かって軽く投げた。 ガキは驚いて俺を仰ぎ見て……くしゃりと顔を歪めた。 「ありがとう……」 「背中やら腹に入れとけ。多少は違うだろ」 ガキがいつ家に戻るのか、悪いが俺にそれを見届ける時間はない。 「手袋はポケットにでも隠して帰れ。カイロは家に着くまでに捨てればいい。 知らないおにーさんに貰ったなんてバレたら怒られるだろ?」 「……お兄さん、明日もまた来る?」 俺は眉をあげた。 「さあ、休みだから来ないかもな」 「えっ?今日はお仕事休みだから来てたんじゃないの?」 「違ぇーよ、あそこからの帰り。 明日はあそこが休みだから来ないの」 公園の敷地からやや離れた、でかい建物のてっぺんにある看板を指差した。 「パチンコ……」 「そういうこと。 つーか、お前も明日ここにいちゃダメだろ」 「……うん……」 ポケットに手を突っ込んだ。 その指先に何か冷たいものが触れた。 ん? 摘まんで取り出すと、それは小さなパチンコ玉だった。 ドル箱から玉を掴んだときに溢れてたまたま入ったのだろう。 「それ、ちょうだい」 「は?何すんだよ、こんなもん」 何の変哲もない、ただの銀玉。 磨かれているのか妙に光って、パッと見は綺麗だ。 覗くと小さく歪んだ俺が映った。 「記念に。宝物にする」 「なんの?」 宝物にするほどのものじゃないと思うがな。 俺が聞き返すと、ガキはもじもじと答えた。 「……お兄さんに会った記念に」 はぁ~。 俺は厄介なことに首を突っ込むことになりそうだ。 「お前、名前は?」 「尾山タケヒロ」 「そっか、俺は散田だ」 「サンタ?」 「さ ん だ」 しっかり訂正して、俺はタケヒロの手のひらにパチンコ玉を置いた。 「またな、ってのも変だな。もう会わなきゃいいな」 「僕は……また会いたいな」 「はっ、いつも肉まん食わせてもらえると思うなよ?」 俺は踵を返した。 「じゃーな」 「うん。ありがとう、サンタさん」 「さ ん だ !!」  それがタケヒロとの出会いだった。
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