第37話「虹・惨事」

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 花園中学は、頭がお花畑の人間が通う中学ではない。花園という地域に存在している、まともな中学校だ。その花園中の文芸部は、荒くれ者がそろっている。彼らは、趣味や性癖のために、周囲を顧みずにひた走っている。  かくいう僕も、そういった人間の一人だ。名前は榊祐介。学年は二年生で、厨二病まっさかりのお年頃。そんな僕が、部室でいそしんでいるのは、備品のパソコンで、ネットを巡回して、役にも立たないようなネットスラングを調べて、悦にひたることだ。  そういった、うつけ者ばかりの文芸部にも、真面目できちんとしている人が一人だけいます。バーサーカーの群れに紛れ込んだ、お姫様。それが、僕が愛してやまない、三年生の雪村楓先輩です。楓先輩は、三つ編み姿で眼鏡をかけている文学少女。家にはテレビもなく、活字だけを食べて育ったという、純粋培養の美少女さんです。 「サカキく~ん。ネット詳しいわよね。教えて欲しいことがあるの~」  間延びしたような声が聞こえて、僕はネット巡回の手を止めた。楓先輩が席を立ち、ととととと、と僕のところまで駆けてくる。そして、ふわりといった様子で、僕の右隣にちょこんと座る。その様子は可愛らしいお人形さんのようで、僕は思わず笑みを漏らす。 「何ですか先輩。また、知らない単語を目撃したのですか?」 「そうなの。サカキくんは、ネットのマエストロよね?」 「ええ。ネット界の巨匠。人間国宝とでも言うべき存在です」 「その、サカキくんに、聞きたいことがあるの」 「何でしょうか?」  僕は知っている。先輩は、最近ノートパソコンをお父さんに買ってもらった。文芸部の原稿を丁寧に推敲するためだ。そして楓先輩は、そのパソコンをネットに繋いだ。切っ掛けは、オンラインの辞書を利用するためだった。そのついでに、ウェブブラウザを開いてみた。それがいけなかった。先輩は、そこに未知の言語情報があることを知ってしまった。そして現在、ネット初心者の楓先輩は、ずぶずぶとネットの罠にはまりつつあるのだ。 「虹と惨事って何? よく、対のようにして、出てくるんだけど」  おっ、そう来たか。僕の脳内では「虹」「惨事」の漢字で変換される。おそらく、楓先輩がネットで見たものも、そういった表記だったはずだ。
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