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甥(孝哉)side
「兄貴、電気消すよ」
「ん」
真っ暗。
静かな部屋。
「…………ありがとな、今日」
「ん。俺、なんもしてない気がするけど」
「いや、お前がきっかけでここに来れたし」
「………母さんに言われて行ったんだけどな」
「くく、照れんなよ」
「照れてねーし」
父さんに対する兄貴の態度は、たぶん結婚する前からだろう。
明らかに他とは違う。
まあ、その相手や周りがまったく鈍感なのはベタな話だ。
俺に対しても少し、少しだけ、昔とは変わった。
いや、気づいた。昔じゃない。
きっと、俺が産まれたときから。
きっと、あんたと出会ったときから。
俺が笑うと、眉をちょっと下げて微笑む。
泣きそうにも見える笑顔で。
大体わかる。似てる、とはもう耳にタコができるほど言われた。
その顔を、泣き顔のような笑顔を見ているうちに、俺も、たぶん。
「うん、…ありがと」
「……それさ、母さんや父さんにも言ってやってよ。きっと喜ぶ」
「うん、……」
「そんで、これからもさ、こうやって泊まりに来てよ」
「うん、……」
「母さんも父さんも小雪も、俺も、兄貴のこと好きだから」
「うん、……」
布団の上で背を向けていた兄貴がこちらに寝返りをうって。
あの、笑顔で。
あの、泣きそうな、笑顔で。
「ありがと」
呟いた。
甥side:end
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