12人が本棚に入れています
本棚に追加
ガチャ
違和感だらけだ。
鍵を開ける必要のないこと。
靴が一足きちんと揃えてあること。
「兄貴、」
前を向くと、甥が立っている。
学校帰りですぐキッチンに立ったのだろうか、学ランの上にエプロンをしている。
「前からずっと思ってたんだけどさ、俺の呼び方、違くないか」
「兄貴? 別にいいじゃん。『叔父さん』より兄貴のほうが呼びやすいし。俺と6つしか離れてないし」
「6つもだろ」
「なに、おっさんって呼ばれたいの?」
「……兄貴でイイデス」
「ふはっ、わかればよろしい」
クスクスと笑う顔から目を離せない。
あの人と、同じ、
「あ、」
「っ、なに」
「いや、忘れてた」
「?」
「おかえり、兄貴」
ふわっと笑う。
ああ、これは。
姉ちゃんと同じ笑い方だ。
「た、ただいま」
何年振りだろう。
たったこれだけの会話。
こんなにくすぐったい。
こんなに。
何故だか、無性に泣きたくなった。
最初のコメントを投稿しよう!