第1話:家族

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「今日は、麻婆豆腐でっす。どーん」 「おおー」 ぱちぱちと手を叩く。 ……え、ちょっと待て。 「え、まーぼーどーふ…?」 え、え、麻婆豆腐ってあれだよな。 あの、辛いやつ。 あの、なんか、辛いやつ。 うん。 ここで既にお分かりでしょうか。 私、大人のおっさんですが 辛いものが苦手です。 辛いものが苦手です。 どうしても辛いものが苦手なんです。 大事なことなので2回言いました。 あれ、3回? でも、わざわざ作ってくれた飯だもんな。 食べなきゃダメだよな。 …………………。 「兄貴、ほい」 「あ、うん」 ああ、なんだこれ。 すげぇ美味そう。 辛いのに。 チラッと前を向く。 ぱくぱく食べてる。 目の前の挙動不審な奴なんか気にせずにぱくぱく食べてる。 辛いかな。 辛いだろうな。 ああもう、きっとうだうだ悩んでいるのがいけないんだ。 こういうのは、勢いが大事なんだ。 おし。 ぱくっと。 「……ん、……んん?」 「辛くないだろ?」 「ん、」 「母さんに聞いたんだ。兄貴は子ども舌だって」 「んぅ!?……っ、ごほ」 「25のいい年した大人が辛い食べ物が苦手とか、ほんっと面白いな。ほら、水」 「けほ、……うっせ。刺激の強い食べ物は身体に悪いとかなんとか言ってた気が」 「曖昧だな」 うわあ、恥ずかしい。 何故か甥にまで知られている俺の好き嫌い。 いや、なんでかっていっても姉ちゃんが言ったってコイツも言ってるし。 恥ずかしい。
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