12人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんで今日もいきなり来たんだよ。来るなら連絡くらいしてくれ」
「連絡しないヤツには言われたくないね。母さん、すっげぇ心配してんの」
「…連絡はちゃんとしてる」
「母さんの電話にはほとんど出ないうえ、留守電に一言だけ、っていうのは連絡とは言わないらしいですよー。たまには顔も見せてくれだってさ」
「ん」
「ほんとはさ、今日こそは乗り込んでやるって母さんが来たがってたんだけど、妹まだ小さくてさ。妹連れて出てくのを必死で止めた」
「…ん、そっか。ごめん」
結局、迷惑かけてんだ。俺は。
あの家にいても、いなくても。
「だから今回は、兄貴の生活調査に派遣されてきたの。それに、兄貴の行動パターンは母さんから学習済みだから。きちっとお世話してやるよ」
「…はは」
なんだ、俺は犬か。
「そだな、犬っぽい」
「な、!」
「兄貴は顔に出やすいよ」
顔に出るとかいう問題じゃないだろうそれは。
心を読むとかそういう次元だ。
クスクスと笑う。
やっぱり似てる。
声も、顔も。
あたり前だ。
「……あの、かず、ゆきさんは」
「父さん? 最近、忙しいっつってあんま帰ってきてないんだ。今夜も会社に泊まるって言ってた」
「そ、なんだ」
「………」
じゃあ、帰れるかも
とかそんなことを思った自分が最低だ。
本当に。
あの頃から成長していない。
「2週間くらい住まわせて。その間俺は、兄貴の生活すべてを母さんに報告します」
「え、俺のプライバシーは」
「え、あると思うの」
「………………」
「ははっ、ごめんごめん。でもいいじゃん。母さんだし、減るもんでもないだろ」
「いや、確実に何かが減ってる。過保護め」
「しょうがない。母さん心配性だし。俺も心配だし」
大丈夫だ。
少しずつでも忘れられれば。
狂った感情を、
少しずつ削ってゆく。
いまだ残る思い出を、
少しずつ削って。
またあの笑顔に笑いかけられるように。
最初のコメントを投稿しよう!