第1話:家族

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「なんで今日もいきなり来たんだよ。来るなら連絡くらいしてくれ」 「連絡しないヤツには言われたくないね。母さん、すっげぇ心配してんの」 「…連絡はちゃんとしてる」 「母さんの電話にはほとんど出ないうえ、留守電に一言だけ、っていうのは連絡とは言わないらしいですよー。たまには顔も見せてくれだってさ」 「ん」 「ほんとはさ、今日こそは乗り込んでやるって母さんが来たがってたんだけど、妹まだ小さくてさ。妹連れて出てくのを必死で止めた」 「…ん、そっか。ごめん」 結局、迷惑かけてんだ。俺は。 あの家にいても、いなくても。 「だから今回は、兄貴の生活調査に派遣されてきたの。それに、兄貴の行動パターンは母さんから学習済みだから。きちっとお世話してやるよ」 「…はは」 なんだ、俺は犬か。 「そだな、犬っぽい」 「な、!」 「兄貴は顔に出やすいよ」 顔に出るとかいう問題じゃないだろうそれは。 心を読むとかそういう次元だ。 クスクスと笑う。 やっぱり似てる。 声も、顔も。 あたり前だ。 「……あの、かず、ゆきさんは」 「父さん? 最近、忙しいっつってあんま帰ってきてないんだ。今夜も会社に泊まるって言ってた」 「そ、なんだ」 「………」 じゃあ、帰れるかも とかそんなことを思った自分が最低だ。 本当に。 あの頃から成長していない。 「2週間くらい住まわせて。その間俺は、兄貴の生活すべてを母さんに報告します」 「え、俺のプライバシーは」 「え、あると思うの」 「………………」 「ははっ、ごめんごめん。でもいいじゃん。母さんだし、減るもんでもないだろ」 「いや、確実に何かが減ってる。過保護め」 「しょうがない。母さん心配性だし。俺も心配だし」 大丈夫だ。 少しずつでも忘れられれば。 狂った感情を、 少しずつ削ってゆく。 いまだ残る思い出を、 少しずつ削って。 またあの笑顔に笑いかけられるように。
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