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◇◇◇
梅雨入りして、早三日。
飽きもせず曇天からしとしとと雨が降り続く一方、街中は色とりどりの傘で溢れかえっていた。
そんな街中のとある会社の開発部では、グレーのスーツに身をつつみ、お世辞にも背が高いとは言えない男性、牧野恵(マキノケイ)が頭を抱えていた。
「はぁ…」
笑えば可愛らしいと地元のおば様達にもてはやされたその容姿も、今は眉間にしわを寄せ、険しい。
「どうしたもんかなー…」
人より少し色素の薄い焦げ茶の髪を書き上げ、手にした書類と睨み合う。
「恵、どうした?」
「悠里…先輩」
顔を上げれば、黒の癖毛を上手いことセットした細身高身長の男、御門悠里(ミカドユウリ)が立っていた。
「なんか問題でもあった?」
手元を覗き込んでくる悠里先輩に苦笑して、思い切って相談する。
「実はさっき部長がこの案件持ってきたんですけど、俺この日他社に打ち合わせしに行く約束してて、日時がもろかぶりで…」
「…どれ?」
「これです」
書類を手渡すと、悠里先輩は書類を熟読し始めた。
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