第4章:交差する想い

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思いがけない人物の登場に、胸が高鳴るというより、肝が冷えるという表現の方が近かった。 「どうして…ここに?」 何か必要な資料でもあったのか?と悠里の様子を窺っていると、悠里はドアにもたれかかったまま、ゆっくりと口を開いた。 「部長が資料あったから戻って来いって」 「…え?」 悠里の言葉を理解すると共に、頭の中で部長の「ごめんね、ごめんね~」という間延びした声が容易に思い浮かんだ。 ぶ、部長……。 結局俺はただの無駄足くらった訳かと肩を落とし、そこでふと気が付く。 もしかして、悠里…それをわざわざ伝えに? 資料室にいるというのに資料を探す素振りのない悠里を見て、すぐにそれは確信へと変わる。 「…わざわざ、ありがとうございます」 無視されてても、社会人として一応礼しとくべきだよな…と悩んだ末感謝を示せば、 「…どういたしまして」 と悠里からあまり感情のこもっていない返事が返ってくる。 「………」 「………」 気まずっ。 用は済んだ筈なのに、何故か悠里は出て行こうとしない。 けれども、俺だって頼まれた資料がなければ、こんな所に長居は無用。 そう思って、入口へと向かう。
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