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思いがけない人物の登場に、胸が高鳴るというより、肝が冷えるという表現の方が近かった。
「どうして…ここに?」
何か必要な資料でもあったのか?と悠里の様子を窺っていると、悠里はドアにもたれかかったまま、ゆっくりと口を開いた。
「部長が資料あったから戻って来いって」
「…え?」
悠里の言葉を理解すると共に、頭の中で部長の「ごめんね、ごめんね~」という間延びした声が容易に思い浮かんだ。
ぶ、部長……。
結局俺はただの無駄足くらった訳かと肩を落とし、そこでふと気が付く。
もしかして、悠里…それをわざわざ伝えに?
資料室にいるというのに資料を探す素振りのない悠里を見て、すぐにそれは確信へと変わる。
「…わざわざ、ありがとうございます」
無視されてても、社会人として一応礼しとくべきだよな…と悩んだ末感謝を示せば、
「…どういたしまして」
と悠里からあまり感情のこもっていない返事が返ってくる。
「………」
「………」
気まずっ。
用は済んだ筈なのに、何故か悠里は出て行こうとしない。
けれども、俺だって頼まれた資料がなければ、こんな所に長居は無用。
そう思って、入口へと向かう。
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