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しかし、碧はあの頃の碧ではなかった。
去年夏の軽井沢での経験と、ロネ先輩と共に勝ち取った女学校馬術競技広島県大会団体優勝の栄冠とが、今の碧を一回りもふた周りも強くしていたのだ。
すると大尉はふと表情を緩め、ゆっくりと口を開く。
今度は押し殺した声等ではなくごく普通の声にて。
「一等巡洋艦摩耶砲術長、海軍特務大尉大山崎長矢だ。
見覚えのある顔だと思ったら、君はもしかして呉の松宮充(みつる)技術中佐の娘さんか?」
「はい。
娘の碧と申します。
父を御存知なのですか?」
「ああ。
松宮技術中佐には昔から世話になっているんでね」
その後大山崎が話してくれた処に拠ると、自分が少尉時代陸海軍合同砲術競技会に於いて優勝出来たのは、松宮技術中佐が25mm単装砲を調整してくれたお陰であるらしい。
そうなると智は、碧ちゃんの父親の知り合いで良かったとホッとした反面、如何に上官とは言えよくも驚かせたなという気持ちが頭をもたげたのであった。
「全く…
撃たれるかと思いましたよ」
「ははは、君が熊野春子さんを付け狙う奴ではない以上その必要はない」
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