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同じ頃省線呉線虎杖駅には、警察官と神戸市電車掌とに付き添われた少女の姿があった。
年の頃はロネこと武尊露音(つゆね)と同じ16歳。
服から覗く顔も手足も鮮やかな褐色である事から、彼女の出身地が南方の地であることが窺える。
そんな彼女は付き添いの二人から、チットちゃん若しくはチット嬢と呼ばれていた。
「アックツにユーリやんけ!」
「ユーリちゃん。
どちらさんなん、そちらのお嬢さん?」
「悪いが挨拶は後やスロ」
「久しぶりロコちゃん。
訳は中で話すさかいに、上がらしてもろてええ?」
お互いに愛称で呼び合っている事から分かるように、四人が旧友であるのは言うまでもない。
やがてその場に露音が帰宅するや、露音は目を見開きながら口を開くのであった。
「チットさん!
グラちゃん心配しとうよ!
はよ寮に帰らなあかんやん!
今までどこに行っとったん!」
露音にとってグラロークは可愛い後輩の一人。
つい語調が強まり責めるような口調となってしまうのも無理はない。
何故なら露音は、グラロークがトクニの清楚寮ではなく大分県佐伯にいる事もその理由も、チットが神戸の地で生田警察署に保護された事も知らないのだ。
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