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一方、チットは身を小刻みに震わせるばかりである。
「黙っとったらわからへん…」
「待ってロネ。
チットさん震えとうやん」
「泣いとう子を責めたりしたらあかん」
可愛い後輩を思うが故の行動とはいえ、武尊夫妻は愛娘を相手の言い分を端から聞こうともしない人間に育てた覚えはない。
やがてそんな母の思いが通じ、露音はチットをそれ以上責めようとはしなかった。
素郎はそんな愛妻と愛娘を誇りに思いつつ、三人を駅舎兼自宅へと案内する。
やがて雷造が口を開いた。
「堪忍なチット嬢。
ロネちゃんは後輩が心配なだけや。
怒っとうんやあらへん」
「せやでチットちゃん。
うちらが力になるさかいに、もう泣かんといてね?」
「ラーチャプルック様…」
そんな言葉を交わしつつ、三人は武尊家の中へと入って行く。
やがて家の引き戸がチリンチリンと音を立てて閉まると、虎杖駅に静寂が戻るのであった。
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