現在の暗雲。

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 沖縄県垣戸市。 鉄道趣味愛好者そして航空趣味愛好者の間では、そこそこ有名な街である。 鉄ちゃん若しくは鉄子ちゃんの間でそこそこ有名なのは、丸に十文字のような形で島内に敷かれた線路を走る、新ケービンこと垣戸市電の路面電車。 元々は農産物等を島内各所から島の南北に設けられた港まで運ぶ為に設けられた、軽便鉄道の路線を拡張尚且つ電化したものである。 軌間は762㎜で電圧は直流600V。 今や博物館ですらまずお目にかかれなくなってしまった二軸単車の小さな小さな電車が、島民たちの大切な足として今なお活躍中なのであった。 因みにその小さな小さな電車は、かつて阪神国道線にて活躍し人々から金魚鉢の愛称で親しまれた電車を、ギュッと縮めたような外見をしている。 名付けて金魚小鉢。 トロリーポールと電線との間にバチッバチッと火花を散らしつつ島内をえっちらおっちらと行くその姿は、長閑な島の雰囲気にすっかり溶け込んで今日に至っていた。 久しぶりの休暇をのんびりした場所で過ごす為つい先程垣戸島北港桟橋に降り立った栗島影正(くりしま=かげまさ)氏が、ここを選んで正解でしたと満面の笑みを浮かべたのも無理のない話であろう。
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