9人が本棚に入れています
本棚に追加
/400ページ
遥か沖合を共に見ながら嵐山と静乃。
混合列車は上手い具合に上り勾配に差し掛かり、ただでさええっちらおっちらなのが更にえっちらおっちらとなる。
一方、列車と対照的に勢いづいた嵐山は、摩耶について熱く尚且つ厚く語り始めた。
「一等巡洋艦摩耶。
ホンマにええ艦でっせ。
そら火力と装甲は戦艦に譲りまっけど、摩耶にはそれを補う舟脚と魚雷そしておよそ700人の家族がついてまっさかいに。
戦艦長門が聯合艦隊旗艦なら、一等巡洋艦摩耶は帝国海軍一番の至宝ですわ」
ここぞとばかりに嵐山。
静乃はニコニコと笑いながら彼の話を聞いている。
嵐山にしてみれば、静乃の反応が自分のイメージした通りであった事に手荒く満足していた。
彼は馬鹿者とは程遠い人物。
誰にも彼にもと見境なく自らの宝物について口にしたりはしない。
「いいなぁ」
「ほうでっしゃろ?
摩耶は海におけるワイの全てでっさかい。
よっしゃ決めたで!
願望含めてあの艦は摩耶や!」
静乃の言葉にそう答えやがて愉快そうに笑う嵐山。
彼とて神様ならぬ身。
静乃が何故
「いいなぁ」
…と口にしたのかを知るには、まだ些かの時間を経る必要があった。
最初のコメントを投稿しよう!