褐色の豆台風。

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遥か沖合を共に見ながら嵐山と静乃。 混合列車は上手い具合に上り勾配に差し掛かり、ただでさええっちらおっちらなのが更にえっちらおっちらとなる。 一方、列車と対照的に勢いづいた嵐山は、摩耶について熱く尚且つ厚く語り始めた。 「一等巡洋艦摩耶。 ホンマにええ艦でっせ。 そら火力と装甲は戦艦に譲りまっけど、摩耶にはそれを補う舟脚と魚雷そしておよそ700人の家族がついてまっさかいに。 戦艦長門が聯合艦隊旗艦なら、一等巡洋艦摩耶は帝国海軍一番の至宝ですわ」 ここぞとばかりに嵐山。 静乃はニコニコと笑いながら彼の話を聞いている。 嵐山にしてみれば、静乃の反応が自分のイメージした通りであった事に手荒く満足していた。 彼は馬鹿者とは程遠い人物。 誰にも彼にもと見境なく自らの宝物について口にしたりはしない。 「いいなぁ」 「ほうでっしゃろ? 摩耶は海におけるワイの全てでっさかい。 よっしゃ決めたで! 願望含めてあの艦は摩耶や!」 静乃の言葉にそう答えやがて愉快そうに笑う嵐山。 彼とて神様ならぬ身。 静乃が何故 「いいなぁ」 …と口にしたのかを知るには、まだ些かの時間を経る必要があった。
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