褐色の豆台風。

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 所変わって、垣戸島の西側に沿う形で南下する途中の単縦陣の先頭に立つ艦…高雄型一等巡洋艦摩耶の上甲板にある左舷12糎単装高角砲座では、忙中閑ありの例えを地で行く光景が見られている。 広い等とはお世辞にも言えない砲座に気の合う仲間らしい人影が何人か陣取っており、その中の一人は双眼鏡を覗き込んでいた。 両肩の階級章を見る限りでは、少佐が一人に大尉が四人の合計五人の士官が同じ砲座に佇んでいる。 やがてその中の一人…一等巡洋艦摩耶の次期航海長と目されている、服部安針(はっとり=あんじん)海軍大尉が口を開いた。 「どうしました大山崎さん? カキトシマの海岸に面白いものでも見えましたか?」 半ば冗談めかしながら服部。 因みに、服部がカキコジマではなくカキトシマと言ったのは、海軍で使われている海図にそう記されているからである。 やがて今のところ彼等の中で唯一の佐官である海軍少佐も口を開いた。 「大山崎君は千里眼だゾイ服部君。 粋な二人組でも見えるのか大山崎君?」 「ははは、まさか。 淡路先生、幾ら長やんでもそれは…」 「無理なものか。 長さんが少尉時分、陸さんとの合同砲術競技会で一体何をやらかしたか、貴様も噂くらいは聞いているだろう富田(とんだ)?」
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