褐色の豆台風。

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大山崎砲術長はそう言うと、初めて目から双眼鏡を離しそれを服部に差し出す。 一方、首を傾げつつ双眼鏡を受け取った服部は素早く大山崎が見ていた方向に双眼鏡を向けるも、そこには垣戸島西海岸が映っているだけであった。 海岸線に沿って走る汽車のものらしい煙りだけは、かろうじて認める事が出来たのだが… 「…一体何が見えたんです砲術長?」 不思議そうな表情を浮かべながら服部。 すると大山崎は、何をとぼけた事をといいたげな表情を浮かべつつ口を開く。 「何って、貨車の上に並んで乗っている男女が見えただろう航海長5分前? …まさかあんなに目立つ目標が見えない筈があるまい」 さも不思議そうに大山崎。 一方の四人も、それに対抗するが如く不思議そうな表情を浮かべている。 その様子に首を捻りつつ大山崎は言葉を続けた。 「さては園田(そのだ)の野郎、レンズ磨きの手を抜きやがったのか? この程度の距離で唇の動きを読み取る位、双眼鏡があれば誰にだって…」 大山崎のこの言葉を、四人が同時に発した 「出来るかッ!!!!」 …という苦笑混じりの一喝が遮ったのは言うまでもない。 そして…
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