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成田智は自分の変わり様に自分で驚いている。
去年の夏休み前の自分であったら間違えても首を突っ込みそうにない厄介事に、自らの意志で首を突っ込もうとしているのだから。
「智様…」
「気にしないで碧ちゃん。
田舗さんにはお世話になっているからね」
そんな会話を重ねつつ智と碧は、広島駅のホームにて下関行きの鈍行列車を待っている。
その理由は言うまでもなかった。
仰ぐ先輩田舗學1号生から直々に、件の女子留学生捜索に加わってはくれないかと打診され、それを快く引き受けたのだ。
「なんだか身内のごたごたに巻き込んでしまって…」
「おいおい、僕は碧ちゃんのエン…」
「智様ッ!
気が早過ぎます…」
顔を真っ赤にしながら碧。
照れ隠しに放った右のジャブが、智の頬をかすめる。
智はそれに苦笑しつつ言葉を続けた。
「僕はね碧ちゃん。
3号生の夏休み位まで、何かと無責任無責任と笑われてばかりいたんだ。
でも、田舗さんはそんな僕を見込んで君との交際を認めてくれただけでなく、新フルタカ会幹部の椅子まで用意して下さった。
今こそその恩に報いる時だ」
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