褐色の豆台風。

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やや鼻息を荒くしながら智。 彼の言う通り田舗學1号生は、昨年の夏休みを境に何かと智に目を掛けてくれる。 そこには従妹のエンゲ5分前だからという公私混同はなく、碧との出会いをきっかけに花開いた智の義理堅さそして律儀さに対する田舗なりの評価そして信頼があった。 「でも智様。 何故沖縄に?」 「新坂さんが田舗さんを通してこっそり教えて下さったんだ。 近いうちに彼女の身内が、船で沖縄に来るとね。 会いたさの余りに… って訳じゃないのかな?」 声を潜めながら智。 新坂さんとは、一ヶ月程前に田舗理事長から紹介された若き士官新坂史男(あらさか=ふみお)海軍大尉である。 田舗1号生曰く、新坂大尉は海大入校5分前の所にまでこぎつけるも、敢えてそれを辞退し軍人修業を積み直している謙虚な人物であるらしかった。 「私… あの方嫌いです。 金満おじ様への態度と下士官兵への態度とが、余りにも違い過ぎるんですもの…」 少し不服そうに碧。 一方の智は、まさか碧がそんな事を言うとは思わなかったのか、首を捻りつつ口を開く。 「何故だい? 軍人にはよくある話だよ?」 「そして、呉の工廠の物陰で見てしまったんです。 泰王国からいらしたらしい偉い人と新坂大尉とが、泰語で何かを話しては二人とも嫌らしく笑っている所を。 その様子を思い出す度に、私もう怖くて怖くて…」
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