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「大人なレディーは勉強と遊びを両立するの! …あ、やめてその溜め息。本気の溜め息はちょっと傷つくから」
重く湿った溜め息を吐く少年に、茜が気勢を削がれる。
「いいじゃんちょっと遊ぶくらい。受験生だって趣味くらいあるよ」
「いつも遊んでるように見えるから聞いてるんだけどね。大体今の動き、相当練習してるでしょ。暇なの?」
「これはずっと前から練習してた賜物!」
はあ、ともう一度溜め息。何やら諦めたような雰囲気であるが、茜は特に気にしない。
「ねえ、茜さん…今度はイエローの動き、できる…?」
そうこうしている内にカレンが新しいリクエストをしてくる。まさに独壇場とばかりに茜は大きく頷いた。
「まっかせて。イエローの動きはアクロバティックだからね、ちょっとスカートでやっていい動きじゃないけど、他ならぬカレンちゃんの頼み、やってみせるよ!」
と意気込み、側転の仕草で腕を大きく広げ――
「やらんでいい」
と、そんな冷静な声で止められた。
人ごみを縫って、正真正銘の子供らと子供のような幼い風貌の少女の前に現れた人物は、これまたまるで子供のような体躯の少女であった。
茜の知る限り割と露出高めな服装だった彼女は、やはり最近の寒さで厚着をしだしている。コートなんて着ていると何だか大人っぽいと思うのだ。元々風貌が幼いだけで、その纏う雰囲気やどこか冷徹さを感じさせる視線は子供のものではない。
元吸血鬼ハンター。その少女の名前は、田野上りせといった。
「お待たせ、茜」
「りせちゃん、もういいの?」
用事とやらでしばらく姿を消していたりせは、小さく頷いてみせた。
「大した用事じゃないし。ていうか茜、公衆の面前で変身ポーズは無いと思うよ」
呆れたようなりせの言葉に、茜は唇を尖らせる。
「この熱いパトスを理解してくれるのはカレンちゃんだけだよ、もう。これはね、つい先週の放送で新クール初お披露目が済んだばかりの当番回専用のモーションで――」
「分かった分かった。行くよ」
構わず先を歩いていくりせを慌てて追いかけるように、茜は演技指導を中断して子供らにバイバイと別れを告げる。カレンは名残惜しそうに手を振っていた。直弥とルイはさっさと行けとばかりの視線を送っていた。
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