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スタスタと器用に人波を縫うりせに追い付くと、やはりその雰囲気に茜はどこか近いものを感じる。
足取りは軽いのに、無邪気さとは程遠い。
笑っているのに笑っていない、そんな感覚。どこか放っておいたらいけない気がする背中。茜は小さく笑う。
「さっきの、やらんでいい、ってやつ」
自然とそんな言葉を漏らす。りせは歩きながら小走りに隣に並ぶ茜を見やり、首を傾げる。
「ちょっと涼ちんに似てた」
涼ちん、という名前を聞いて、りせは複雑な表情を浮かべた。
「そう?」
「割とね。りせちゃん、結構涼ちんと雰囲気似てるとこあるから」
「あんま嬉しくないなぁ、それ」
何かを思い出すような間を経て、りせが肩を竦める。涼ちん、と呼ばれる人物を思い浮かべても、褒め言葉にはなりそうにない。
茜からすれば、純粋に褒め言葉であると分かってはいても、だ。
そうして、りせは楽しげに隣を歩く茜を見つめ、躊躇いがちに口を開く。
「あのさ、茜…やっぱ、寂しい?」
少しだけ申し訳無さそうな響きが込められたその言葉を、茜は一瞬キョトンとしたように、しかしすぐに優しげな笑みで応える。
「正直に言えばね、ちょっと寂しい事もあるけど…でも全然平気」
だってね、と茜はりせの掌を取り、握る。手が冷たいところも何だか似てるな、なんて事を思いながら。
「今は、りせちゃんが一緒にいてくれるし」
面と向かって言われても、それはそれで反応に困る。りせはほんの少し顔を背けた。
「ま、りせは茜のボディーガードだからね」
素っ気無い言葉にも、慣れたものと茜が笑う。
「照れてる?」
「置いてくからね」
歩みを速めるが、置いてけぼりにはできない。しっかりと、手が繋がれている。離れないように。
数ヶ月前まではどこかたどたどしく、今ではそれが当然とばかりにしっかりと。
「……あったかい」
引っ張るように後ろを歩く茜に聞こえないように、小さくそんな言葉を呟いていた。
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