序章

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 ようやく視認したその影をかろうじて追い、男達は銃口を向け躊躇なく引き金を引く。破裂音の連打。銃口を飛び出した鉛弾が影に向かって殺到する。  ふっ、と、揺らめく陽炎のようだった。男達に向かい疾駆する影が唐突に軌跡を変える。ジグザグに進む回避運動。  意表を突かれるような事ではない。ごく当たり前の行動であり、予想できた行動だ。  ただその速度があまりにも、速すぎる。  銃口を向けた視界の先から姿が消え、その残像を追うように視線をそちらへ向けようとした瞬間――男の視界は宙を舞った。  その視界が最後に見た景色は、首の無い体と、その向こうで一瞬の余韻を持って振りぬかれた日本刀の銀閃。  死に際のその僅かな間。男の生首は、仲間が次々と切り伏せられていく様を見届けていた。  人影が悠然と歩き出す。首を刎ねた相手に何の感慨もないとばかりに。  青白い月明かりに照らされてなお、鮮やかなまでの赤い返り血を浴びて幽鬼のように揺らめく、赤い影が。
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