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…………
重厚な作りの両開きのドアの前には、1人の男。闇の奥から音も無く現れた人物にギョッとしたように身構え、しかしその顔を見て安堵する。
「アネス! 奴は――」
「クルーエル卿は?」
男の言葉には応えず、アネスと呼ばれた男は鋭い双眸をさらに眇め、質問を返す。
「中に」
「車はどうした? 脱出できなかったのか?」
「爆弾が仕掛けられてた! クルーエル卿は無事だったがレヴィンとヒルデが…」
アネスと呼ばれた男が小さく舌打ちをする。少し間、遠く聞こえた爆発音。部下を足止めに残して主の元へと大急ぎで戻ったが、やはり悪い予感は的中していた。
聞きなれた自分の部下の顔を思い浮かべて短く黙祷する。悼みたいのは山々だが、今はそんな場合ではない。
「中に入ってドアを閉鎖しろ。バリケードでも何でも構わん」
「し、しかしまだ…!」
アネスの言葉に、男の1人が言い淀み、視線を廊下の向こうの暗闇へと向けた。
残してきた部下がいる。4人。しかし――
「…今しがた、銃声は途絶えた。諦めるしかない」
悔しそうに、男は唇をかみ締め拳で壁を殴る。
これが役目であり、仕事だ。分かっていてもやるせない。アネスは部下の態度には何も言わず、その重厚な扉を両手で押し開く。
中は開けた応接室。電気は点けていない。月明かりが差し込む部屋には4名の自分の部下。その奥に守られている、恰幅のいい初老の男。アネスの主だった。
「クルーエル卿、ご無事で」
クルーエル卿と呼ばれた初老の男は、自身が最も信頼を置く男の帰還に、安堵の表情を浮かべる。
「私は大丈夫だ。賊はどうなったのだ? 状況は?」
主の言葉に小さく深呼吸をし、不本意な報告の為に息を吐く。
「残念ながら健在です。ご存知の通り、こちらの足を潰し、館の電源を全て落とし、通信手段は電話線の断線と妨害電波をもって遮断。部下が応戦中でしたが、恐らくは全滅です」
クルーエル卿の表情が強張る。無理も無い、とアネスは周囲を見渡す。訓練されているはずの自分の部下達でさえ、怯えたようにサブマシンガンを抱えて青ざめているのだから。
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