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バタン――という物音だった。
扉を開いたか、あるいは閉めたか。遠く微かに。
その場にいた者全員が、その微かな音を聞き取った。
そして全員が、凍りついたように動きを止める。
バリケードはほぼ完成していた。といっても腰より低い机や化粧台を立てかけただけの頼りないものだったが。2人の部下が支えるように腰を低く扉を押さえる。
木製とはいえ、かなり重厚な作りの扉だ。そう簡単には突破できないはずだった。
腰に据えたサブマシンガンを全員が扉に向けて構える。サブの弾を使い果たしたアネスは拳銃を抜く。手を使ったサインで、無言で部下に合図を送る。
この場に残るのは、自分を含めて扉を守る部下と3人。それ以外の3人はクルーエル卿を連れて窓から脱出。そんなサインだった。
痛いほどの静寂が流れる。
アネスはじっと、耳を澄ます。人間のそれよりも遥かに優れた種族の中にあってさえ、群を抜くその聴力と集中力。
震えている部下の指が引き金にカチカチと当たる音でさえ、クリアに聞こえていた。
動きはなく、音も無い。まるで何かの気のせいだったとばかりに。
息を止めた部下の何人かが、わずかに集中を切らせた瞬間だった。
「――窓から離れろっ!!」
その微かな気配と音を、アネスは探知した。叫ぶと同時に体を反転させ、銃口を背後の窓に向ける。
同時、ガシャンッという破砕音と共に窓ガラスが割れる。何かが窓を突き破って入り込んできた。
その大きさを見て、その場の全員が人間大のものではないと判断する。大き目のボールのようなものだ。すぐに囮だと気付けたはずだった。
投げ込まれたものが仲間の無残な生首で、そこに手榴弾のようなものがくくりつけられていなければ。
「ガードッ!!!!」
アネスの怒号に、訓練された彼の部下達は正気に戻り機敏に動いた。もちろん、各々の身を守れという指示ではない。守るべきものを守る為の指示だ。クルーエル卿の傍にいた3人の部下が一斉に肉壁として彼を覆い隠す。
その行動とほぼ同時、手榴弾が破裂した。
溢れ出たのは音と光。フラッシュグレネード。
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