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…………
ぐちゅり、と音を立てるのは、赤い影が切り裂いた体から流れ出た夥しい血液。文字通りの血の海だった。
生きている者はいない。1人を除いて。
クルーエル卿は、目の前に立つ赤い影に追い詰められるようにあとずさる。
「まっ…待て! 待ってくれ…! き、君は、何か誤解している…!」
単なる苦し紛れというだけではない、どこか確信をもった言葉だった。しかし赤い影は歩みを止めない。油断無く、クルーエル卿へと肉薄する。
「わ、私は! 私たちは! 君の敵ではないはずだ…! 我々が敵対する理由など無いはずだ!」
クルーエル卿の背中が、壁に当たる。右も、左も壁。目の前には日本刀を振り上げる血まみれの影。
月明かりに照らされたその人物の顔を見て、クルーエル卿は確信する。
「や、やはり君はっ、君の名は、石弓涼斗だろう!? 君の事は知っている! ならば、やはり誤解がある! わ、私は、私たちは――」
叫ぶような、クルーエル卿の言葉が響いた。
「我々は、共存派の吸血鬼だっ!!」
振り上げた日本刀を一瞬だけ止め、赤い影――石弓涼斗、と呼ばれたその若い男は、感情のない瞳でクルーエル卿を見つめる。
そして、一言だけ、呟いた。
「知ってる」
白銀の一閃が、クルーエル卿の首を刎ねた。
崩れ落ちる体と、噴水のように噴きあがる血の雨。それを特に感慨もなさげに浴びながら、ゆっくりと踵を返す。
ニヂッ、ニヂッ、と音を立てる、怪物の足取りで。
生者のいない館の、闇の中へと姿を消した。
/序章・了/
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