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グラディウス領…遊楽の都メルライト
「出たぞぉ!今夜こそは引っ捕らえるぞ!」
豪華な屋敷の屋根を、大きな袋を担いで走る男性。赤と白の派手な格好は、およそ盗っ人には見えない。
「追え!逃がすな!」
屋根から屋根に跳び移る男性を追うのは、白いローブの集団。
私は彼らを知ってるわ。
グラディウスから見て南東…ジェルズに最も近い都市メルライト。白いローブの集団はゴルリム・メルライトの私兵団。
グラディウスに追われる頃耳にしたわ。メルライトで[幻惑の返却者]と名乗る盗賊が現れたと。誰にも見つからず金庫に侵入し、金品を盗んでは民衆にバラ撒く。
「来るぞぉ!雷だぁああ!避難しろぉおお!」
男性が派手な建物の屋根で手を掲げると、私兵団は避難を始めた。
え?ちょっと!建物の前は民衆で溢れてるわ!
男性「行きますよ?[ダークアッパー]。」
私の不安はすぐに払拭され、代わりにやって来たのは疑問と驚愕だった。
雷が来ると言った私兵団の人…気でも違ってない限り、[ダークアッパー]は雷にはなり得ない。なぜ雷と表現したの?
それにその[ダークアッパー]…男性がいる建物と民衆を避け、私兵団の侵入を防ぐ様に周囲の路地から黒い魔力の柱が聳え立った。
[ダークアッパー]にしては規模が広すぎる。でも巻き込まれた私兵団の被害を見るに、威力は抑えたみたい。その魔力とコントロールに私は驚いた。
男性「さあ皆さん!返却のお時間です!」
袋からお札をバラ撒く男性。私兵団は男性の魔法を前に、為す術なく立ち尽くしている。民衆は我先にとお札の雨に躍らされていた。
男性「では皆さん。これにて失礼します。」
丁寧にお辞儀すると、男性は再び屋根を走り出した。
「どこに行った!?探せ!このまま逃がしてたまるか!」
魔法が消えると私兵団は男性を探す。
やっぱりおかしいわ。
普通に走る派手な男性を、見失ったみたいに走り回ってる。屋根を見上げれば絶対目に付くのに。
私兵団が解放された事で、民衆は散り散りに逃げ出した。
男性「今夜も楽勝ですね。」
屋根から降りた男性が帽子を取ると、黒髪が良く似合う美男子だった。歳は私達より少し上かな。
あ…男性の背後から私兵団の人が1人忍び寄ってる。
建物に身を潜めて[ケータイ]で電話しながら尾行してるわ。
気付いてないのかな。男性が角を曲がり、白ローブは身を潜めながら男性を覗いた。
男性「残念でした。」
覗いた白ローブは待ち構えていた男性と目を合わせた。咄嗟に距離を取る。
白ローブ「きっ…消えた!?」
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