14 ゆれる想い

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「そろそろ潮時だと思ってるんだ」と日下部さんが、いつになく力のない声で言った。 「今まで夢中でやってきたけど、そろそろ歳かな」 「そんなことないですよ。日下部さんはいつだって元気じゃないですか」 「これまで順調だったからって、つい手抜きをしそうになるんだよ。一度手を抜いてしまえば、だめになることはわかっている。でもこの頃、俺はなんのために働いているんだろうって、そればっかり考えてる」 「日下部さんのためじゃないですか。それに、家族のためじゃないですか」 「うまくいってなかったんだよ、俺たち。離婚っていう決断が、こんなにエネルギーを消耗するものだとは思わなかった」 「離婚したんですか?」 日下部さんが呟いた離婚という言葉は、あまりにも突然で衝撃的だった。
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