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「女の人がいない家って、どういうのかわかる?」
再会してしばらく経ったとき、江美里はそんなことを言った。
「私なんてブラジャーを初めてつけたのが、中学三年生のときなんだよ。修学旅行の前に、一人で買いに行ったんだ」
もともと父親と仲の良い関係を築けていないことは、知っていた。一人暮らしをしていた私は、授業のたびに夕食をご馳走になったりもしたけれど、父親はいつも帰りが遅く、一緒に食事をしたことはなかった。海外赴任で数年間家を留守にしていたせいもあるのだろう。
いつも張り切って料理を作る母親と、負けず嫌いの江美里と、泣き虫の弟、陸斗くん。
父親の不在を彼らはそれぞれにどう理解していたかはわからない。
江美里は父親が帰ってくると、真っ先に玄関へと向かうこともあれば「浮気してるんだよ」と罵るように言ったこともある。
まだ五年生の江美里がそんなことを言い出すなんて思わなかったから、あのときの私は驚いて、どんな言葉を返したか覚えていない。
薄々は気づいていたものの、たぶん、なにも言えずにいたのだろう。
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