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それからの関係を決定づけたのは、事故が起こったときに父親とはしばらく連絡が取れなかったことだ。そのおかげで出発が遅れた江美里たちが病院に到着する前に母親は息を引き取った。
家族の死は、悲しみだけじゃない。
一瞬にして、それまでの日常も未来を変えてしまう。
母の事故の原因さえ父親のせいにしてしまった彼女にとって、父親と暮らす家は決して居心地の良い場所ではなかった。
弟が全寮制の高校に入学した年、彼女は旅館の仕事を見つけて高校を卒業するのを待たずに家を出たのだった。
その旅館で、私たちは再会した。
温泉宿の取材中に、声を掛けてきたのが江美里だった。小学五年生だった江美里は十八歳になっていた。
あのとき江美里は、お金を貯めたならもっと遠くに逃げるのだと言っていた。今はそのための準備期間なのだと。
あれから二年が経ち、江美里がまだここにいるということは、お金が貯まっていないからなのか、それとも逃げ出す必要はないと判断したからなのかはわからない。
でも、この二年間に江美里は随分変わった。ギリギリのところで生きているという感じがしなくなった。
楽しいときは思いっきり笑って、こんなふうに一緒にご飯を食べているときには運ばれてきた一つ一つの料理に歓声をあげる。
それでもまだ江美里は、逃げたいと思うときがあるのだろうか。
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