2091人が本棚に入れています
本棚に追加
私が気にしているだけで、彼は何とも思ってはいないのかもしれないけれど、つい思いとどまってしまう。
日下部さんとキスをしてしまったのは、半月ほど前のことだ。
飲み会が開けたときには、電車はもう終わっていた。春になったばかりだというのに、歩いていると汗が滲んでくる夜だった。そのとき、ご飯を食べに行こうと誘う口調でキスでもしようかと日下部さんが言った。
一度きりのことだった。
しかも、キスだけのことだ。
中学生でもあるまいし、そんなことを気にしているのかと、笑われてしまうけれど、私は期待してしまっていた。たぶん私は、それ以前から日下部さんの存在を気にかけていた。
でも、日下部さんからプライベートな要件で連絡が来ることはなかった。会社で顔を合わせても、これまでと何も変わらない。
彼には奥さんも子供もいる。
割り切った付き合いというよりも、友情の延長でつい先に進んでしまったという感じなのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!