3 日下部さんのこと

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あまりに順調すぎると、ときどき怖くなる。 世の中にはもっと一生懸命頑張っている人がいて、それでも手に入らないものがいくつもある。それなのに私は、努力もしないで、たくさんのものを手に入れてきた。 人との付き合いは苦手だと思っていたけれど、手に入れたもののほとんどは、誰かがそっと握らせてくれたものだ。 日下部さんに渡された企画書を見ながら、私はそんなことを考えていた。 そこには、青い海に面して真っ白い教会が建てられている。 札幌駅から電車でおよそ一時間。そこからバスで三十分。 式を挙げるだけではなく、海の見えるレストランで、パーティを開くこともできる。 出席した人々は、北海道の海の幸をふんだんに使った料理を堪能し、南国のリゾートのような海辺で音楽に耳を傾ける。少人数の船上パーティや、新婚カップルのクルージングができるプランも組まれていた。 きっと、どこかの街のカップルは、未来に胸をふくらませてやってくるのだろう。 そんな仕事ができる私は、やはり幸せなのだと思う。 その絵を見ていると、達郎と結婚するのも悪くないと思えてきた。 でも、ワクワクするのは結婚式というイベントだけで、その後の結婚生活はイメージがわかない。
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