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殺伐とした庭先に射し込む数条の月明かりに照らされ、伸びる長い影。
澄んだ冬の宵空に向けて立ち上る弾んだ幼いジェリンの白い息がいくつも吐き出されていく。
哀れな義弟を慰めるつもりなど全くなかった。
ただ、ひたすらに剣を振り続ける行為の裏側にあるものに興味が湧いただけだった。
「何をやっているんですか?
バカの一つ覚えみたいに」
背後から掛けたワタシの声にジェリンは一瞬驚いては見せたものの、すぐに素振りを再開した。
「……レイウッド…兄さん…。
見ての通り…素振り、だよ」
額にびっしりと浮き上がる玉粒の汗が飛び散る。
「……泣きながら?」
「!! 違う、これは汗だよ。
俺はいつかレイウッド兄さんみたいに……強く、誰からも……認められるように…なるんだ!」
歯を食い縛りながら、何度も何度も振り続ける木の枝に一体どんな力があるというのだろう。
ジェリンは吸血鬼の能力ではなく、人間と同じ物理的な力で強くなろうとしていた。
「認めさせてやるんだ……吸血鬼なんかの力がなくても…、強くなれるんだって……!
俺は、出来損ないなんかじゃ……ないんだって……」
その時、思った。
ジェリンは全てを分かった上で乗り越えようとしているのだと。
父母から愛を与えられないのは、他でもなく自分の弱さを恥じているのだと。
哀れみを越え、僅かばかり芽生えた慈しみの感情が灯ったのはその瞬間だったのだと記憶している。
「……ジェリン」
ワタシは強がるジェリンを後ろから抱き締めた。
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