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父さんも母さんも俺を見ることはなかった。
いつも視線の先にいるのは、アド兄。
吸血鬼の能力が桁違いだったアド兄は二人にとって、自慢の息子だったんだろうな。
アド兄は優しかった。
俺の方を見ようともしなかった両親と違っていつも俺を気にかけ、助けてくれた。
レイ兄はアド兄とは対照的に傍観し、普段は黙っていたけど、俺が危機を感じた時、辛い時にいつも助けてくれたのはレイ兄だった。
両親が亡くなるまで続いた虚しい日々も、今では笑い飛ばせるようになった。
しかし、あれから気が遠くなるような年月を重ねたせいなのか、父母が亡くなった日の記憶が曖昧で……。
思い出そうとすると、頭がズキズキする。
***
「よーっす、はよー……って、まだ帰っていないのかよ…」
ダイニングに足を踏み入れた俺は乱れた髪をグシャグシャと掻いて、奥のキッチン貯蔵スペースにのっそりと入り込むと、食器棚からグラスと、貯蔵庫から自分の契約者の名が刻まれたパック袋を取り上げ、部屋に舞い戻った。
昼間から雨音が鳴り止まない。
ひっきりなしに降り続ける夜の窓はいつもよりずっと暗かった。
あの日から、生活が変わった。
レイ兄の帰りがただ遅いだけなのか、何らかの事件に巻き込まれたのか、それとも……
「意図的に帰らないのか……か」
雨の音だけが虚しく響く部屋で、グラスに開けた栄養源を一気に喉に流し込むと、すぐにも椅子から立ち上がった。
兄二人も、あの子も、憎かったはずの両親も、誰一人居なくなった屋敷はあまりに広すぎた。
加えて、この雨だ。
雨の日は必然的に仕事が休みになる。
それは俺が吸血鬼だからに他ならず、人間になったアド兄やアルトはもちろん、ダンピールであるレイ兄でさえも、雨の下での活動を制限させることなく、生活が出来る。
「って、俺だけか……」
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