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「兄弟喧嘩とは……私とレイウッドならまだしも、まさかお前がね。
信じられないな……」
「まあ、心配するなよ。
互いに子供じゃねーし、すぐに仲直りするって!」
「でも、会おうともしないなんて、よっぽどだよ!」
いつもはオドオドしているアルトがまなじりをしっかり持ち上げて、俺に意見してくる。アルトは争い事を好まない。
それは以前の事件がそうさせているのだろうな。肉親同士で馬鹿げた争いはもう御免だろう。
だから俺は、極めて優しい声でこう言ってやった。
「じゃあ、次にレイ兄が戻るタイミングでよく話し合うことにする。
約束するよ」
実際には何を話せばいいかなど分からないがな。
それよりも、俺のなかでもやが掛かる部分を明らかにしたいものがあった。
「なぁ、アド兄。
あのよ、父さんと母さんが亡くなった時のことなんだが……覚えているか?」
俺の口から滑り出た言葉にそりゃ驚いただろうアド兄は片手で口を覆った。
「まさかそれが今回の喧嘩の原因か?
馬鹿な、まさか覚えていないのか?」
「いや、原因はこれとは違う、かけ離れた所にある。
アルトは知らないだろう?
この機会に教えておいてやってもいいかと思ってね」
以降、アド兄はそれ以上疑うことはなく、アルトも気になっていた話題だったようで、俺は二人の会話にじっと聞き耳を立てていた。
家に侵入してきたダンピールが幼く、力が弱かった俺を拐って逃走し、レイ兄と両親がそれを追い掛けていった。
アド兄は両親に止められ、家に留まったのだが、レイ兄はなぜか現場に向かっていた。
その後、両親とダンピールの遺体が見つかった。
聞けば聞くほど、おかしかった。
俺が覚えていない訳がない事件のはずがなかった。
レイ兄が俺の記憶を消し去ったのかもしれないとぼんやり考えるようになった。
だが、理由が分からない。
なぜ、俺の記憶を消したのかが。
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