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雨の中を書類を手に向かうには、自殺行為過ぎる。
しっかり沈みこむ事務椅子の座り心地に身体を落ち着け、持ち出す書類をまとめていると、廊下の奥から、聞きなれた靴音が響いてきた。
しかもいつもより足早に。
まずい、ここに居ることがバレる訳にはいかない。
考えるよりも早く、俺はすぐにも赤猫へと姿を変えた。
艶やかな毛皮のような滑らかな手触りの赤い毛並みに零れそうな紫の瞳。
物音ひとつ立てまいと、俺はすぐに机の下へと姿を隠した。
背が高いレイ兄からは死角になるだろう位置で、かつ、部屋のほぼ全体を見渡せるその場所へと降り立つと、息を潜めてじっとその瞬間を待った。
自室に入る際、ノックをする者など居ない。
静かに回されたノブ、ドアの蝶番がきいきい鳴ったその奥に、いつも通り無表情のレイ兄が現れた。
レイ兄はさして慌てる素振りもなく、滑らかな歩行で机へと一直線に向かってきた。頭を低くし、身体を更に奥へと引っ込めた。
かさっ、と音がした。
骨張った白い手が床に転がったあるものを拾い上げた。
やばい、あれは……!
「部屋に……入ったようですね」
カサカサと広げられた紙は、アルビのホテルから出された領収証。
即座に探索モードへと移行する気配を感じ取り、ジェリンは机の下で脅えた。
足音が机の前で止まる。
「引き出しを開けた……なるほど、相当急いでいたようですね、目に見える机の上から移動するだけましですが、必要書類自体を纏めて同じ場所にしまったままということが果たしてどのようなことを伝えてくるか……
理解できなかったのでしょうか」
レイ兄の声と雨音だけが響く。
まさか、気付いている……!?
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