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心臓が早鐘を打つ。
静寂の空間にレイ兄の靴音と雨の音が鮮明に聞こえる。
「ここにあるはずのない書類が複数重なって置かれている。
見つかれば、確実に侵入したことが分かってしまうにもかかわらず、侵入形跡を残した……つまり、書類を手に脱出する暇が得られなかったということでしょう」
出した書類を慌てて滑り込ませた引き出しが閉められる音。
気づかれた!
逃げなければ……だが、猫の姿になったままの俺はドアを開けることができない。
捕まることは目に見えている。
足音が部屋を徘徊し始める中、俺はただただ見つからないようにと全身を丸め、祈るだけだった。
だが、見つからないわけがない。発見が遅れるだけだ。
「交渉者引継申請書に住居移動申請書……あなたはそんなにワタシから離れたいのですか、ジェリン」
「…………!」
伸びてきた腕にあっさりと掠め取られ、俺の身体は机の下から引きずり出され、宙を浮き、大きな腕に抱かれた。
白燕尾に身を包むレイ兄から、強烈な香水の匂いが鼻につく。
何だ、レイ兄はホテルに女を連れ込んでいたんだな。
嫉妬を越えると、もはや悲しみしか残らない。
「ジェリン」
抱き上げる腕から逃げようともがくも、レイ兄が俺を逃がすようなヘマをするはずがなかった。
顎と尾筋を撫でられると、途端にうずうずとする感覚が入り込んでくる。
猫としての感覚器は、人としての感覚とズレがある。
すりすりと撫でられると、全身に広がる心地よさが抵抗する力を俺から奪っていく。
「いい子だ」
耳元で囁かれ、俺は敏感になる全身をぴくぴくと動かした。
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