レイウッド編〈2〉護るために失くしたもの

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 それはワタシが20歳、まだ人としての身体成長が行われていた頃。  ジェリンはまだ十ほどの子供でした。  『望むものは山ほどの金か?  それともすぐ腰を振ってくる女か?  何でも望みのものをやろう』  『何でもとは……随分気前がいいですね。  それで?  ワタシはどうすればいいのです?』  『城内に手引きしてくれりゃいいさ。  後は俺がやつらを仕留める』  薔薇庭園のガーデンチェアに脚を組んで腰掛け、書を読み耽るワタシの後方に影。  それは、まだ建設途中の若い背丈の庭園が見渡せるシャルルローズ邸の柵に隣接する大樹のそばから。  吸血鬼の血統だけが通ずる思念の波が発せられていた。  『随分な自信ですね。  シャルルローズ夫妻二人相手に無計画とは』  開いていた書物に栞を挟んで閉じ、柵外の男の影がある方角をじっと見た。  『何を言っている?  俺はダンピール様だ。  今まで何人穢れたヴァンパイア野郎を始末してきたと思ってる?』  『そうですね、あなたはワタシと同じダンピール。  しかも、昼間の襲撃ならば吸血鬼達は満足に動けませんからね……分かりました』  照りつける陽射しがさわさわと揺れ動く梢を突き抜けて、ワタシの眼にかかるも、優性遺伝である人の血が吸血鬼の体質をいともたやすく打ち消す。  ワタシはただ眩しいだけの陽射しに目を細め、口元を歪ませた。
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