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それが、あの不幸な子供の運命を救うための唯一の方法なのだと言い聞かせて。
――そして事件は起こる。
手引きした男が屋敷に押し入ってから、かなりの時が経過していた。
断末魔の悲鳴もなければ、囀ずる鳥の愛らしさはも、何もかもがいつもと変わらない。
静寂は、すなわち男の企みが、しいてはワタシの企みが成就したことを意味している、はずだった。
眩しいだけの陽射しに身を委ねながらガーデンチェアにもたれかかり、読書に勤しんでいたワタシは久々に優雅な、解放された気分でいられた。
後は、時が経つのを泥のように待ち、何食わぬ顔をして姿を見せればそれでいい。
誰もワタシを疑うことなどなく、咎める者も居はしない。
そして醜悪な父と義母がこの世から魂を消し去った暁には、ワタシがかねてより提示していた報酬である、吸血鬼と人の停戦条約が結ばれる手筈になっている。
「レイウッド、ジェリンがいないんだ……どこを探しても見つからない!」
日暮れ、慌てたように庭園に入り込んできた影はそう言った。
蝋のような顔を更に蒼くさせ、耳にかかるほどの赤いルビーの髪が乱れていた。
ジェリンと同じ形質にもかかわらず、その男はワタシを苛々させる。
ただこの場で同じ空気を吸うだけで、ワタシの聖域である薔薇庭園に踏み込まれただけで。
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