レイウッド編〈2〉護るために失くしたもの

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 人形細工のような完璧な美貌とでも言うのか。  義母は息子二人に形質を分け与えたオリジナルの赤髪とアメジストの瞳をきつく据えていたが、ワタシの後方に現れる者の気配を感じとるとすぐに尖った気配を和らげた。  「アド! どこに行ってしまったかと心配しましたわ」  白く細い指でアドルフを抱きしめようとする義母を、アドルフは手で制した。  「母上、私は大丈夫だ。  それよりジェリンは見つからない……!  やっぱり脅迫状にあったように私の代わりに拐われたんだ……!  早く助けに行ってやらないと……」  ジェリンが余程憎いのだろう、愛する我が子の口からその名が飛び出すと、一瞬顔を強ばらせた。  しかしそれも一瞬のことで、すぐにも元のような溺愛ぶりを発揮しようと手を伸ばす。  「何をしている、早く行くぞ。  このような馬鹿馬鹿しいことはもう二度と御免だ」  怒鳴り声を張り上げる父は、義母への愛は泡沫のように消え失せ、二人の間柄はもはや機械的な間柄に成り下がっていた。  「……わかったわ。  アド、お父様とお母様は今から犯人を追跡します。  あなたはまだ足手まといです、家にいなさい」  「! でも……」  「心配しなくても大丈夫よ、アド。  私達が助けに行くから」  悪魔の微笑みを抱擁で隠して、義母はアドルフの耳元に甘い声で囁いた。  やはり、  やつらはジェリンを……殺すつもりだ。
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