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拐われたことが大々的に世に出回ってしまえば、夫妻が隠し通してきたジェリンの存在が明るみに出てしまう。
それより前に拐った犯人を追跡し、事が大きくなる前に芽だけではなく、根ごと刈り取ろうというつもりだということは明白。
そんな勘定が働きでもしない限り、彼らがジェリンを助けに行く、ジェリンのために危険を犯すことなどあり得ない。
どのみち、これから先ジェリンが育っていく中で何かに難癖をつけて勘当するつもりだったことは、ワタシの母が夫人から聞いている。
「いい、可愛い子。あなたは家に鍵をかけ、閉じ籠りなさい。
どなたが訪ねてこようとも、決してドアを開けてはだめ……いいわね?」
「うん、わかった」
哀れな上の息子は何も気付いていない、ただ母親の言葉に頷くだけの人形のようだった。
「ワタシも付いていきます」
顔を上げたワタシに、
「それはならぬ。
お前もアドルフと屋敷にいなさい、レイウッド」
父は義母にも見せたことのない柔らかな表情でワタシを見下ろす。
ワタシの形質は、人間の母親のそれではなく、父親であるこの男のもの。
父はワタシに愛情を注いでいる。
それが原因で義母に嫉妬の種を与えてきたことも苛烈な行動に走らせていることも、彼には興味はないのだろう。
義母の愚鈍な行為に気付かずにいるのか、見て見ぬふりをしているのか。
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